2040年に向けて新たな地域医療構想への準備
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はじめに
2040年に向けて、日本の医療提供体制は大きな転換点を迎えています。高齢者人口のピーク、生産年齢人口の急減、地域ごとの医療ニーズの多様化など、これまでにない変化が同時進行している状況です。これらの課題に対応するため、厚生労働省は「新たな地域医療構想(地域医療構想2040)」を示しました。従来の病床数に焦点を当てた議論から一歩進み、外来・在宅医療、介護、医療人材、医療DXまでを含めた総合的な医療体制の再設計が求められています。本コラムでは、新しい地域医療構想の全体像、これまでの取り組み、構想のポイント、そして今後の課題について整理してお伝えします。
「新たな地域医療構想」とは
地域医療構想とは
地域医療構想は、2014年の医療法改正をきっかけに始まった国の医療政策です。2025年の超高齢社会を見据え、地域ごとに必要な医療機能や病床数を推計し、医療機関の役割分担を促す仕組みが整えられました。これまでの構想は入院医療(病床)の調整が中心でしたが、2040年に向けては外来・在宅・介護・医療人材など、より広範な領域での連携・再構築が不可欠になっています。
新たな地域医療構想とは
急速に変化する医療需要に対応するため、厚生労働省は2040年を見据えた新たな地域医療構想を策定しました。病床機能の分化・連携という従来の枠組みを超え、地域全体を包括した医療提供体制の再設計を目的としています。
重要な視点として、以下が挙げられます。
- 地域完結型の医療・介護体制の構築:地域内で必要な医療・介護サービスを完結できる体制の整備。
- 外来・在宅医療と介護の一体的連携:地域全体で切れ目のないサービス提供体制を構築。
- 医療機関の役割明確化:高齢者救急、地域急性期、在宅連携、急性期拠点、専門機能などを再定義。
- 医療人材と医療DXの強化:医療従事者確保、働き方改革、データ連携等の推進。
新たな地域医療構想のスケジュール
- 2025年度:国がガイドライン策定。
- 2026年度:都道府県が地域医療構想を作成。
- 2027年度以降:医療機関の役割分担や体制再構築の協議・実行が本格化。
これまでの地域医療構想と今後の課題
これまでの取り組み
- 病床機能の分化(急性期・回復期・慢性期)
- 病床機能報告制度による実態把握
- 30万床規模の入院から在宅・地域へ移行
- 地域医療構想調整会議の設置
今後の主な課題
- 病床中心の議論に偏っていた点:外来・在宅医療への対応が遅れた。
- 機能区分の曖昧さ:急性期と回復期の境界の不明瞭さ。
- 医療従事者の確保が困難:人口減少・医師偏在・診療所医師の高齢化。
- 高齢者救急の急増:85歳以上の救急搬送は75%増と予測。
- 地域差の拡大:都市部と過疎地で医療ニーズが大きく異なる。
「新たな地域医療構想」の方針と具体策
1. 医療機関機能の明確化と再編・集約化
- 医療機関を「高齢者救急」「地域急性期」「在宅連携」「急性期拠点」「専門機能」などに再定義
- 医療機関機能報告制度の改善とデータの可視化
- 再編・集約化の支援(基金・補助金の強化)
- 病床転換に関する知事権限の強化
2. 外来・在宅医療・介護との連携強化
- 在宅医療需要は2040年までに約62%増加と予測
- 訪問診療・訪問看護・ICT連携の強化
- 高齢者救急への包括対応(早期リハ・退院調整)
- 外来医療の役割明確化(かかりつけ医・専門医の協働)
- 医療と介護の一体的提供体制の構築
3. 人材確保と医療DXの推進
- 医師・看護師の働き方改革の推進
- 医師偏在是正(大学病院派遣機能の強化)
- 電子カルテ標準化・オンライン診療・AI活用
- タスクシフト・シェアによる業務最適化
- 地域での医育・研修・リカレント教育
さいごに
2040年に向けた医療提供体制の変化は、もはや「遠い未来の話」ではなく、すでにクリニック経営の目の前で始まっています。高齢者の増加、患者ニーズの複雑化、医療DXの加速、そして医療人材の不足は、すべてが密接につながり、院内の運営に直接影響を与えるテーマです。今後は、病床機能だけではなく、外来・在宅・介護を含めた地域全体の医療構造が大きく組み替わる流れが確実に進んでいきます。この変化を乗り越えるうえで重要なのは、まず「基礎となる人員体制を整えること」です。必要な人数を確保するだけでなく、役割の再整理やタスクシフトを進め、限られたスタッフでも質を落とさず運営できる下地づくりが欠かせません。また、制度改正や地域の医療動向を早めにキャッチし、自院の診療体制や働き方にタイムリーに反映していく“柔軟な経営判断”もますます重要になります。これからのクリニック経営は、変化に合わせて動ける準備力と、情報を活かして最適な選択を続けられる体制づくりが勝負どころになると考えています。