労基法40年ぶりの大改正

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医療機関の働き方はどう変わるのか

2025年、労働基準法(労基法)が約40年ぶりに抜本的な改正を迎えようとしています。

日本の就労環境はこの40年で大きく変化し、
特に医療現場は多様な働き方が混在する特殊な業界となりました。
外来・健診・美容・訪問診療・夜間対応・オンコール対応など、医療従事者の働き方は、労基法が設計された当時の「標準的な労働モデル」から大きく乖離しています。

こうした背景から、働き方・労働時間・契約形態・残業
・勤務間インターバル・連絡制限(つながらない権利)など
医療現場を直撃する内容が相次ぎます。

本コラムでは、医療機関の経営者・管理者が必ず理解すべき論点を
厚労省審議会の議論・法制度の背景・医療現場の実態を踏まえ、専門的に解説します。

第4章

第11章

第1章

なぜ今、40年ぶりの大改正が必要なのか

― 医療機関が直面する「制度と現実のズレ」 ―

 

1.1 日本の労働構造は40年前と完全に異なる

1980年代の労基法の前提は
「正社員が毎日同じ時間、同じ場所で、同じ業務を行う」というものです。

しかし現代医療は以下のような働き方が常態化しています。

・パートタイム、短時間、複業勤務

・在宅事務スタッフ、リモート会議

・外来→健診→美容などの複数業務兼務

・臨時枠、時間外診療、急な患者増への対応

・訪問診療による直行直帰・移動時間の発生

・オンコール待機と不規則な呼び出し

・非常勤医師の複数医療機関掛け持ち

これらすべてが、“旧来の労基法では想定されていない働き方”です。
したがって、制度と現実の乖離があまりに大きくなり、法改正は不可避となっています。

 

1.2 医療機関はとくに影響を受ける業界

厚労省は、改正の背景として「現場の実態と制度のミスマッチ」を最大の課題として挙げています。

医療機関では、

・患者数によって終業時刻が変動

・診療業務の性質上、業務終了を職員がコントロールできない

・シフト制運用の高度化

などの特徴があり、労働時間管理が最も難しい業界とされています。
そのため今回の改正は、美容や訪問診療を含むあらゆるクリニックにも直撃します。

 

第2章

「労働者」の定義が広がる可能性

― 医療現場の“委託・副業・非常勤”が再評価される ―

 

2.1 改正議論の前提:「実態に応じて労働者とみなす」方向へ

厚労省は現在、

「契約名称ではなく、実態で労働者性を判断する」

という方向で議論を進めています。

とくに問題視されているのは、業務委託契約にもかかわらず、

・院長による指揮命令

・固定シフト

・勤怠の拘束

など 雇用契約に近い働き方が横行している点です。

 

2.2 医療機関で該当しやすい“グレーゾーン職種”

以下のような働き方は、労働者認定の対象となりやすくなります。

・委託看護師(実質看護業務)

・美容施術スタッフ(固定シフト+院内勤務)

・委託経理・委託医療事務(院内業務が多い場合)

・非常勤医師(患者数・勤務時間を指示される場合)

判断基準は

「指揮命令関係」「時間的拘束」「代替性の有無」です。

 

2.3 認定されるとどうなるか

労働者と判断された場合、

・残業代請求

・社会保険加入

・有休付与

などが遡及して発生します。

医療機関にとっては重大リスクです。

 

第3章

労働時間管理の柔軟化と厳格化

― 移動・オンコール・中抜けがすべて管理対象へ ―

 

3.1 改正の方向性

厚労省の資料では次の2つが示されています。

  1. 働き方に“柔軟性”を持たせる
  2. 一方で“記録の厳格化”を徹底する

つまり

「自由度を広げる代わりに、記録はより精密に」

という方向です。

 

3.2 医療機関で特に問題となる論点

医療現場では次の時間区分が争点化しやすくなります。

・訪問診療の移動時間

・オンコール待機

・診療遅延による延長勤務

・昼休みの中抜け(実質業務性)

・片付け、レジ締め、申し送り

従来“曖昧”で済まされていた部分が、すべて 「労働時間か否か」を判断する対象になります。

 

3.3 ICTによる客観的記録が義務化へ

紙タイムカードや自己申告は不十分とされ、

・ICカード

・GPS

・勤怠アプリ

など 客観性のあるシステム利用が推奨されます。

 

第4章

過半数代表者制度の厳格化

― “院長が選ぶ時代”は終わる ―

 

厚労省は、過半数代表者制度が形骸化していることを問題視しています。

医療機関では

・院長の指名

・実質選挙なし

・任期不明

などが多く見られます。

 

4.1 改正の方向性

・民主的な選挙

・院長の関与禁止

・選挙の記録義務

・任期の明確化

これは 就業規則の改定・36協定締結のすべてに関わるため、クリニックには極めて重要です。

 

第5章

説明義務・同意プロセスの強化

― 職員への説明不足が“違法化”する流れ ―

 

5.1 改正の背景

働き方やシフトが変更される際、

「説明した/していない」

というトラブルが全国で多発。

医療機関では、

・遅番の導入

・診療時間変更

・業務追加(美容枠・訪問診療など)

が原因のことが多い。

 

5.2 新しいルールの方向性

・就業規則の説明義務強化

・説明内容の文書記録

・職員の理解・同意プロセスの明確化

診療所でも、説明会・記録の保存が必須となる流れです。

 

第6章

つながらない権利

― 勤務外のLINE・電話は“業務指示”扱いへ ―

 

6.1 国際基準に合わせた導入

EUでは既に法律化されており、日本も同様の方向へ進んでいます。

特に医療機関は

・院長が直接LINEで連絡

・急なシフト調整

・患者クレームの共有

など「勤務外の連絡」が多く、最も影響を受ける業界です。

 

6.2 今後の位置づけ

勤務時間外の連絡は原則として

「応答義務なし」

がスタンダードになります。

 

6.3 医療現場の実務対応

・オンコール担当の明確化

・LINEではなく業務チャットの利用

・時間外通知オフ設定

 

第7章

週44時間(特例措置事業場)の再整理

― 医療機関が最も誤解している制度 ―

 

7.1 クリニックは「週44時間」が多い

常時10人未満の診療所は

・商業

・映画演劇

・保健衛生

・接客娯楽

の特例に該当し、週44時間の労働が法定内と認められます。

 

7.2 多くの医院が知らない“切り替わりリスク”

10人以上になると

自動的に週40時間へ切り替わり、これを把握していないと大量の未払い残業が発生します。

 

7.3 診療所の成長フェーズで最も問題化

・美容導入でスタッフ増員

・訪問診療でチーム拡大

・多職種採用(PT・管理栄養士等)

などで10人を超えやすい。

 

第8章

裁量労働制は医療現場に拡大されるのか

― 医師・看護師・医療事務は“対象外のまま” ―

 

8.1 裁量労働制とは

「労働者が時間配分を自律的に決められる業務」を

みなし時間で計算する制度。

 

8.2 医療専門職が対象にならない理由

・患者対応で時間裁量がない

・医療行為は手順が厳格で自由度が低い

・診療時間や患者数という外部要因に左右される

 

8.3 対象の可能性があるのは“非臨床部門のみ”

・広報

・DX担当

・経営企画

などは対象検討可。

 

第9章

勤務間インターバル制度

― 「退勤から次の出勤まで11時間以上」が国際標準 ―

 

9.1 なぜインターバル制度が必要か

過重労働の最大原因は

「休息不足」

であるという国際的な研究に基づき導入が進む制度です。

 

9.2 医療機関で発生しやすい問題

・遅番 → 翌早番

・夜間呼び出し → 翌朝外来

・健診スタッフの早朝勤務

これらは 勤務間インターバル違反の典型例。

 

9.3 今後の方向性

・法律上の努力義務 → 義務化が議論中

・最低11時間の休息時間の確保を推奨

 

第10章

残業(時間外労働)のルールも変更へ

― 固定残業の乱用が厳しく制限される ―

 

10.1 時間外労働の上限規制

医師以外の医療従事者は

・月45時間

・年360時間

が厳格に適用されます。

 

10.2 固定残業(みなし残業)の厳格化

厚労省は固定残業制度の乱用を問題視し、

・基本給と時間外単価の適正化

・超過分の支払い義務

・求人表記の透明化

を求めています。

 

10.3 残業命令性の判断基準

業務上必要な行為(片付け・申し送り・診療延長)は

すべて時間外労働になります。

 

第11章

施行スケジュール

― 2025年法案提出 → 2026年前後に段階施行へ ―

就業規則改定・勤怠体制見直し・選挙制度導入などは

準備に半年以上必要。2025年中の着手が必須です。

 

第12章

なぜこれほど重大な改正なのにテレビで報じられないのか?

 

12.1 内容があまりに専門的

・裁量性

・インターバル

・過半数代表者

などテレビでは伝わりづらい。

 

12.2 業界ごとの影響が大きく異なる

医療・物流・飲食・ITで異なるため“短尺ニュース”に不向き。

 

12.3 法案成立前のため確定情報にできない

誤報リスクを避けるため「深掘り報道」が行われない。

 

POINT

今回の40年ぶりの改正は、

医療機関の組織運営そのものを刷新するレベルの大改革です。

特に重要なのは以下です。

・労働者概念の広がり

・客観的勤怠管理の必須化

・勤務間インターバル11時間

・残業ルールの厳格化

・つながらない権利

・週44時間特例の見直しリスク

・裁量労働制の誤用禁止

・過半数代表者選挙の民主化

これらは 負担増ではなく、“辞めない組織” “採用に強いクリニック” をつくるための基盤となります。

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参考サイト@厚労省